今日は一日中雨でしたので、電池を入れても全く音が出ないSONY製トランジスタラジオ TR-610の修理をしました。まずは内部の基板を取り出して、使われている部品などを調査することにしました。ざっと見て、基幹部品であるトランジスタは、JIS規格の前のものが使われていました。SONY独自に命名したトランジスタです。
OSCコイルは、シールドされていない古いタイプのものです。この当時、まだまだ使われていた真空管ラジオのOSCコイルはシールドされていません。その形を引きずっているのではないかと思います。このOSCコイル、フェライトコア部が欠損していました。
トランジスタラジオ TR-610から取り出した基板、矢印はコアが欠損したOSC
使われているトランジスタを調査しました。欠損したOSCコイルの隣りにあるのは、周波数変換用トランジスタの2T73です。第1 IF増幅用には2T75、そして第2 IF増幅には2T76が使われていました。初段電圧増幅用として2T64が使われていました。
左から、2T76,2T75,2T64 周波数変換用2T73
次に、音声出力関連のトランジスタを調査しました。2T66が2個使われており、B級PP構成になっていました。安価にラジオを製造するため、A級出力にしているものがあります。A級出力にするとトランジスタを1個省くことができます。しかし、このA級出力は電気を常時流しているため電池がすぐに無くなります。このため、このトランジスタラジオTR-610のようなB級PP構成は正解です。なお、温度補償用バリスタとして1T52が使われていました。
2T66を2個使ってB級PP構成、黒色のものは温度補償用バリスタ1T52
昭和30年代初め、トランジスタの統一規格はありませんでした。トランジスタのJIS規格の登場により、2T73,2T75,2T76,2T64はそれぞれ、2SC73,2SC75,2SC76,2SD64になりました。これら、トランジスタ名称統一の過程を見ると、日本のトランジスタ開発史をみる思いです。
2T73,2T75,2T76の規格 2T66の規格
SONYのトランジスタが面白いのは、どれもNPN型トランジスタです。他メーカーはPNP型ばかりなのが不思議です。型の不統一は、当初トランジスタの製造がアメリカ(RCA,FC,WHなど)やヨーロッパからのライセンス生産から始まったためではないかと思われます。なお、高周波用のトランジスタを安定的に作ることができたのは、SONYだけだったようです。
2T64の規格 温度補償用バリスタ1T52の規格
使われているトランジスタの調査を終えて、スピーカ端子のショートを防ぐためのシートを元の位置に貼っておきました。当時のラジオ製造はカット&トライの連続だったでしょうから、製造してみて初めてこの不具合に気がついたのでしょう。一時的な対策として、このシートを貼るらざるを得なかったのではないかと思います。このTR-610の後期製造品は改善されていると思われます。
私はかつて、テレビ製造現場の試作ラインにいたことがあります。新製品を試作ラインで組み立てて、製造するための工数,必要な人数や工具,工程などを測ります。これを測ることによって、より正確なコストが分かると共に綿密な製造計画を立てることができます。新製品製造時、思わぬ製造不具合が発生することはそう珍しいことではありませんでした。製造ラインを止めて、みんなピリピリしながら対策をしました。その時の、怒号が飛びかうような熱気あふれる緊張感を今でも思い出します。
スピーカ端子のショートを防ぐためのシートを元の位置に貼る
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古いSONY製トランジスタラジオ TR-610の修理(2)
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