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Channel: 東京里山農業日誌
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古い東芝製トランジスタラジオ(カーラジオ) AR-109の修理(1)

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 先日、東京日野市のKさんから、とても古い自家用車に載せられていたカーラジオの修理を依頼されました。家庭用ラジオを修理したことは何度もありますが、カーラジオは初めてです。おそらくラジオとしての機能は同じだと思いますが、自動車特有の機構があると思います。農作業ができない雨の日などに、のんびり時間をかけて修理しようと思います。
 古い自動車とは、日野コンテツサと呼ばれる自家用車です。今は主にバスやトラックを専門に製造している日野自動車が、確か昭和30年代頃に製造していた自家用車です。私にとって何十年ぶりに聞いた、懐かしい響きのある車種名です。

  日野コンテッサ 1300(昭和30年代)       丸はダッシュボードのカーラジオ
 

 届いたカーラジオ(「オートラジオ」とも言う)は、東芝製と三菱製です。東芝製は二つあり、一つは筐体が無い部品取り用のものです。当時のカーラジオは同調部のメカニックがとても精巧です。いきなりの修理はリスクがあります。このため、最初、このラジオの機構を勉強してみる意味で、壊してもよいジャンク品を念入りに調査し、場合によってはジャンク品も直してみることにしました。また三菱製も並行して直してみることにしました。 

            東芝製のカーラジオAR-109、左:ジャンク品 右:要修理品


 このカーラジオは、昭和30年代製らしくAM放送しか入りません。当時はまだFM放送がなかったか、FM放送をカーラジオで受信する技術が無かったのかも知れません。
 ちなみに、下の写真は私が持っているカーラジオで、10年位前に製造されたものです。クラリオン製の製造国がフィリピンのものです。FMも受信できます。さらに、PLLシンセサイザー技術を使っていると思われ、電波を自動的に検索してくれます。さらに自動的にプリセットしてくれます。カーラジオの進歩は驚きのものがあります。

      10年位前製造のカーラジオ        丸はAM受信部(マッチ箱位の大きさ)
 

 ところで、昭和30年代のカーラジオの一番の特徴は、電波の同調回路にあります。家庭用のトランジスタラジオは可変容量型の同調回路です。いわゆるバリコンを回して同調します。しかし、この当時のカーラジオは可変インダクタンスを使っての同調です。つまりμ同調器を使っています。当時のカーラジオは、メカニック的にプリセットするしかないため、可変容量型の同調回路は使えなかったのでしょう。
 まずは、メカニックなプリセット機能をチェックしました。すると、メカニック的な同調機能は正常のようです。ちゃんとフェライトが出たり入ってりします。下の二つの図で、上の丸はμ同調器のフェライト部で、下の丸は同調周波数を示す指針です。

      低い周波数を受信時                高い受信周波数を受信時
    μ同調器のフェライトが入る                   μ同調器のフェライトが出る
 

 メカニックなプリセット機構が正常な事を確認すると、次にプリセットする時の選局機構をチェックしてみました。すると、つまみを回しても選局部がさっぱり回りません。つまみと選局部が繋がっていないようです。調べてみると、つまみ側の軸と選局部を繋ぐ軸が外れているか切れているようでした。

             つまみ側の軸と選局部を繋ぐ軸が切断(丸の部分)
                A:つまみ側の軸 B:軸 C:選局部              


 次に、μ同調器そのものをチェックしました。このカーラジオは高周波増幅しています。このため、高周波増幅用,選局用,そして混合発信用の三つのμ同調器を使っています。高周波増幅用と思われるμ同調器にはアンテナ線と思われる線が接続されています。アンテナ線はボロボロでした。アンテナ線にはトリマーコンデンサがぶら下がっていました。

   プリセット機構内の三つのμ同調器           ボロボロのアンテナ線
 

 μ同調器は私が子供の頃、ラジオを勉強するための1石程度の入門用廉価版ラジオによく使われていました。しかし、今は製造されていません。今や幻の同調器と言っていいでしょう。秋葉原に行っても、再生品や中古品すらありません。
 なお、昭和30年代のカーラジオにこのμ同調器が使われていた理由は、当時の選局プリセット機構が機械式であったことに由来すると思います。バリコンは軸を回転させて同調するのに対して、μ同調器はフェライトを出し入れして同調します。メカニック的には、回転よりも出し入れの方が容易にプリセット機構を実現できます。
 しかし、バリコンは可変容量ダイオード(バリキャップ)などの出現で、半導体化されかつ超小型(数mm)にできしかも安価に製造できるようになりました。しかし、インダクタンスだけは半導体化できません。今でもインダクタンスの元であるコイルは必要不可欠です。つまり、インダクタンスであるμ同調器は、どうあがいても半導体化できません。またフェライトを出し入れする機械的な構造上から、小型化できずコストも低減できません。これが、μ同調器が消えてなくなった理由ではないかと思います。

  バリコンは羽を回転させ使用        μ同調器はフェライトの出し入れで使用
                               私が持っている唯一のμ同調器
 


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