朝から雨でしたので、農作業ができません。久しぶりに、とても古いトランジスタラジオを修理してみることにしました。今回修理してみることにしたのは、SONY製のTR-63です。昭和32年頃に製造されたラジオで、当時一番小さかったのではないかと思います。いわゆるポケッタブルラジオの走りです。このトランジスタラジオの成功によって、SONYブランドが確立しました。
SONYブランドを確立したTR-63 ボロボロになった革ケース
このラジオの故障の症状は、かすかにラジオ放送局を受信するのですが、音が小さいことです。また、受信時のダイヤルがグラグラすることです。そして、ラジオ本体ではないのですが、革ケースのあちこちが裂けたり穴が開いています。音が小さくてもラジオ放送をちゃんと受信しているため、おそらく電解コンデンサの交換とトラッキング調整で済みそうです。
ラジオの内部基板、混合発信部,中間周波増幅部、低周波増幅部など
ラジオの裏蓋を開けると、部品が載った基板を見ることができます。今では使われていない部品がてんこ盛りでした。今では見ることができない、古い型番のトランジスタ、変わった形の中間周波トランス、バリスタなどです。ラジオ内部に貼られた銘板を見ると、このラジオの規格が書かれていました。受信周波数は535〜1605kHz,出力0.1W,電源は9V 006Pなどです。9V電池 006Pは、このラジオのために開発されたそうです。このラジオ TR-63の製造が終わって55年以上経っていますが、9V電池006Pはまだ販売され続けています。
ラジオの規格に関する銘板 電源に関する銘板
修理に入る前に、使われている部品などを調査しました。最初に高周波回路部を調べました。使われているトランジスタは、古いタイプのもので、混合発信用に2T613(下画像のTR1),第1中間周波増幅用に2T520(下画像のTR2),第2中間周波増幅用に2T524(下画像のTR3)が使われていました。中間周波トランス(下画像のIFT1,IFT2,IFT3)とOSCコイル(下画像のOSC)は今では見られない型です。そして検波用ダイオードとして1T23(下画像のD1)が使われていました。なお、スピーカーはfoster製が使われていました。fosterは今でも、音響やスピーカーの専門メーカーです。
TR−63の回路基板 高周波回路部
次に、音声低周波増幅部を調べました。低周波増幅用のトランジスタは、三つ共に2T63(下画像のTR4,TR5,TR5)でした。そのうち二つはPP増幅に使われていました。そして、温度補償用バリスタダイオードとして1T43(下画像のD2)が使われていました。
このラジオの回路素子を見ていると、日本の半導体の開発史を見ているようです。例えば、このラジオに使われているキャラメルのようなトランジスタは、当時性能が不安定で苦労したようです。
TR−63の回路基板 低周波増幅回路部
ところで、このトランジスタラジオに使われているトランジスタの型番をトランジスタ活用辞典(昭和38年3月改訂)で調べてみました。まず、2T613,2T520は掲載されていませんでした。新しいトランジスタ開発によって、すぐに廃番になったのでしょう。2T524は下表のとおり、高周波増幅一般用として記載されていました。fαbは2MHzです。なお、2T524は2T54の改良版です。
2T524の規格と性能 2T65の規格と性能
次に低周波増幅用の2T65は電圧増幅用と記載されていました。このラジオの出力は小さく0.1Wですので、このトランジスタ2個で十分PP構成にできるのでしょう。なお、このトランジスタはNPN型で、JIS規格制定時に2SD65と改名されました。ダイオードですが、1T23は一般検波用のようです。そして、1T43は温度保障用バリスタダイオードとして記載されていました。
1T23の性能と規格 1T43の性能と規格
↧
古いSONY製トランジスタラジオ TR-63の修理(1/x)
↧