使用されている電子部品を調査したので、今度はラジオ内の基板を調査することにしました。そのため、表,基板,そして裏蓋の三枚開きにしました。基板を裏返して見ると、昭和30年代らしい基板でした。まずは、寄生発信止め用でしょうか、パスコンが二箇所配置されていました。製造中に発信現象がおきて、やむなくパスコンを取り付けたのではないでしょうか。
次に、イヤホン端子に注目しました。このようなイヤホン端子は初めてです。今は専用のイヤホン端子を取り付けます。当時は、このように数点の金属部品を使って端子としたようです。端子自体も(−)ドライバで回すことができます。ラジオを小型にするならば、専用のイヤホン端子を使うべきでしょう。このイヤホン端子、次に開発されたTR-610では専用の小型イヤホン端子が使われています。
左は表、右は基板 〇:パスコン,ロ:抵抗
その他、修理時だと思われますが、ネジを紛失したためボリュームを接着剤で付けたようです。部品が取り付けられた基板を見ると、当時のトランジスタ応用製品の製造技術が少し分かります。例えば、部品の端子を伸ばして折り曲げて半田付けしてありました。この理由は、部品を基板にはめ込んだ後に逆さまにしても落ちないようにするためだと思います。基板をひっくり返して半田付けしたからでしょう。
イヤホン差し込み口 珍しいイヤホン端子の構造
基板全体を見渡して懐かしい思いにかられました。それは、私が日立のテレビ製造工場の現場にいた時、テレビ基板に思わぬ接触箇所が見つかり、その場所に絶縁テープを張ることがあったからです。同じような絶縁テープがこのラジオ基板に貼られていました。
テレビ開発において最初、テレビ設計部で回路図を作り、続いて生産技術部で試作ラインを作ります。その試作ラインで製造テストするのですが、思わぬ初期不良が見つかることが少なくありませんでした。シャーシの突起が基板に当たったり接触することなどです。そんな時、シャーシや基板を最初から作り変えるのは時間が許しません。改良シャーシや基板ができるまで、絶縁テープを張るなど応急処置するしかありません。新開発のテレビ製造では接触不良や各種トラブルなどの初期不良がつきものでした。試作ラインで仮製造をしながら、初期不良を徹底的に叩き出したり、コストや工数を計算したり、組み立てる女工さんの配置を決定したりします。
接着剤で固定のボリューム、ネジ紛失? 部品の端子線を折り曲げて半田付け
これらの問題を解決後、巨大な工場の本ラインに製造を移します。そして、テレビを何万台も製造したのです。何本もの製造ベルトコンベアに何十人もの女工さん達が張り付いてテレビを製造する様は、今思い出しても圧巻です。その女工さん達は仕事が終わると、いっせいにセーラー服に着替えました。そして、工場から何台ものバスに乗って夜間高校に通学するのです。休日、あどけない彼女達をさそってハイキングやキャンプそして盆踊りなどに行ったことを思い出します。日本にとって、そして私にとっても良き時代の1シーンでした。
このラジオの基板を見ると、当時の設計者や製造部門の女工さん達の苦労や生活がとてもよく分かります。
〇は接触不良対策と思われる応急絶縁テープ
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古いSONY製トランジスタラジオ TR-63の修理(3/x)
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